コラム140:「いのちについての学習を行うための器つくり:1998年から2006年までの歩み」

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小松良子さま

~前書き~

「小松良子先生は、小学校の養護教諭として学校現場でご活躍される中で、同僚の先生方、子どもたちと『いのちについての学習』に取り組んでこられました。エンドオブライフ・ケア協会の『折れない心を育てる いのちの授業』プロジェクトが立ち上がる際にも多くの示唆をくださいました。「授業で学んだことを生活の中で行動したり、できたことを認め合ったりするためには、学級で、学校で、地域での器の存在が必要」とおっしゃる、小松先生の長年の教育実践から学びたいと思います。」

 

ここからが、小松先生ご自身の歩みをたどるコラムです。

 1998年、私の背中を強く押したのは6年生のMでした。Mは学級の多くの児童から存在を否定するような言動を受けていました。リーダー格の児童の言動に流される学級集団の中で居場所を失い、Mは休み時間になると保健室に来ていました。しかし欠席は殆どありませんでした。

 

 Mの強さを支えていたのはなんだろう、どうしたら一人一人が互いの存在を認め合う関係を作ることができるだろうと探る中で、いのちについての学習が鍵だと考え始めました。当時の学校現場はまだチームで子どもの課題を話し合う風土はできていませんでした。ましてやいじめの問題などは難しいものでした。

 

 こうした背景もあり、総合的な学習の時間の実施と、6学年全体の課題解決を図るという目的

から、いのちの学習に取り組むことになりました。それまで学校現場では性に関する教育が広く行われるようになっていましたが、生命の誕生や男女の体の違いに焦点化していることに、少し違和感を覚えていました。

 

 どんな人にも平等に訪れる死、生命体から土に帰すときこそ、誰もが同じように形を変えて永遠と在り続けるのではないか、人の誕生から死までを深く考えれば自分の存在の確信をつかむことができるのではないか、そんないのちの学習を目指しました。

 

 私は小学校の養護教諭ですから、活動場面は保健指導・保健教育・健康教育です。折しも1998年小学校学習指導要領にて「総合的な学習の時間」が誕生しました。この時間に「いのちについて深く考える学習をすることにより子どもの自尊感情を育て、よりよく生きようとする態度を育む保健教育の在り方を探る」ことを目的として授業実践研究を行いました。

 

 学習の展開にあたっては、自ら何を知りたいか課題を見つけて調べ、発表する課題解決型の学習過程、体験を重視し、五感と情意を揺り動かす学習活動、地域の人材や施設、保護者の協力を得る学習体制、毎時間の目標に合わせて学年合同やグループ、個人など学習形態の工夫、毎時間の

振り返りを重視し、自己評価と相互評価を行い、お互いの良い点に、気づきを促すなど、様々な工夫をしました。

 

 2人の担任と私で毎時間のねらいと指導の流れを話し合い、協力教授で行いました。3人の情熱は授業づくりに生かされ、子どもたちの心を揺さぶる学びへとつながったのではないかと思います。

 

 「いのちの学習」に1年間取り組んで、最後の学習発表会、子どもたちが考えたテーマは「限り

あるいのち みんなで支え合って精一杯生きる」サブテーマは「ライフスクランブル いのちに

ついて伝えたい」です。「生まれるステージ」「育つステージ」「働くステージ」「老いるステージ」

「いのちの限り生きるステージ」のうち、各児童が興味・関心のあるステージを選び調べてまとめ発表をしました。

 

 児童の感想です。「私はいのちの学習を通してたくさんの人に出会いました。みんな限りあるいのちを精一杯生きている人たちです。私はそんな人たちと出会って、自分でできることに全力を尽くしながら生きることがどんなにか素晴らしいことかを学びました。いのちは大切だということと、時間を大切にしなければならないということ学びました。」「自分の将来を真剣に考えたので、自信が湧いてきました」

 

 保護者の感想です。「いのちは自分だけのものではないと思うようになった。周りの人への思いやりや役に立ちたいと考えるようになった。」

 

 担任からは「学校だけで子どもを育てているものではないと実感した。」指導後の児童の意識調査では、「悩みや困難を解決しようとする意識」は増加していました。

 

 ちょうどその頃、私は健康教育学会のセミナーに参加するようになり、健康教育「ヘルスプロモーションの展開」を学びました。次の学校ではいのちの学習をこの理論で展開しようと意欲を高めていきました。

 

 1999年から他の小学校に異動しました。そこは生活指導面、学習指導面、経済面で困難を抱えている児童が多数在籍する学校でした。教師は疲弊し、地域や保護者のせいにして、目の前の子供達への情熱を失っているように見えました。

 

 そこでいかに学校の先生に課題を共有させるか、なんとかしようという気持ちを持ち続けさせるを考えて、保健室からの情報発信や個別の児童の課題を多くの先生と話し合う場を作ることなどに、努めました。既存の学校組織や各先生の校務分掌を巧みに利用して、きめ細かなコミュニケーションを図って進めました。

 

 こうして1年後の年度末の職員会議で「いのちの学習」を校内研究テーマにしていこうと提案し、了承を得ることができました。昨年度の小学校の児童の変容を確信していましたが、校内研究全体会での提案には大きな勇気が必要でした。私の児童への愛と願い、そして先生と共に進めたい気持ちを絞るように伝えたことを覚えています。


 1〜2学年は生活科の時間、3〜6学年は総合的な学習の時間に、「いのちの学習」を行うことと

しました。「いのちの学習」に関わる教科・領域の指導要領と教科書を全て調べて、各学年担任と

話し合い、目指す子供像と育てたい力を共有した上でテーマを以下に決めました。

 

 特別支援学級「からだ元気、こころ元気」 
 1学年「いのち感じたよ」 2学年「あしたへジャンプ」 3学年「からだたんけんたい」   

 4学年「二分の一成人式」 5学年「大人に近づくわたしたち」 
 6学年「よりよく生きるために」

 

 2000年度から2002年度の3年間で6学年の「いのちの学習カリキュラム」が、ほぼ完成しました。実施に当たっては、学校内の全ての職員の協力を得ました。担任と図工や音楽専科の協力を

得て、教科の横断的な指導計画を立てました。

 

 保護者に授業場面での協力を得たり、指導内容を家庭に知らせ、親子の話し合いができるように工夫したりしました。P T A活動の協力を得て、「いのちの学習」に関するアンケート調査を行い、発表する場を作りました。地域の施設や商店街の協力を得て、児童が体験活動をさせてもらい、児童と地域との交流を深めました。


 教師が学びを深めるために、教育委員会指導主事に毎月の研究会に来ていただき、研究協議

し指導を受けました。児童や保護者の興味・関心を高め、深い学びを得るために、ゲスト

ティチャーの話を聞きました。エンドオブライフ・ケア協会の小澤竹俊先生にご来校いただいたのもこの頃です。
 
 私は、研究を推進する立場として、学校の教師と職員が持つ力と、地域の資源と保護者の力

「いのちの学習活動」にうまく練り込んで、学んだことや、願っていることが響き合うような学び

の環境づくり、すなわち「子どもたちを育む器づくり」に努めました。1回の授業で学んだことを

生活の中で行動したり、できたことを認め合ったりするためには、学級で、学校で、地域での器の存在が必要です。「いのちの学習」は、人を育てる器づくりの可能性があると思っています。

エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。

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